交尾を確認してから15か月、観察を始めて4か月になろうかという6月17日早朝、突然変化が起きました。親ザメの排泄孔から白濁液が漏れ始めました。
白濁液の量は相当なもので、パンパンに張った親ザメの腹がゆっくり萎んでいきました。「いよいよ出産かな?まだ時間はかかるかな?」程度の気持ちで観察の補助に入り、ビデオ撮影をしていると一緒に観察していた飼育員がいきなり「しっぽが出た!」と叫びました。
これを聞いて、頭の中が真っ白になってしまいました。一番心配していたのがこの状況だったのです。尾から出てくるということは、逆子ということです。逆子では、ヒレなどが引っかかってしまい、うまく出産されない可能性が高くなります。
ここまできて失敗かと冷や冷やしながらも観察をしていると、少しずつ胎内に戻っていき、今度は頭の先端が見えました。赤ちゃんは胎内で反転し体を折り曲げながら、顔をのぞかせたのです。親ザメが体を大きくくねらせた次の瞬間、子ザメはスルリと滑り出すように出産され、のたうち回るように泳ぎだしました。
記憶にはないのですが、ビデオには「出る!出る!出る!出た!」と叫び声が記録されていました。シロワニの誕生の瞬間を収めたこの動画は今までにない非常に貴重な記録になりました。
早く掬い上げたいと水槽の上まで駆け上がると、すでに待機していた取り上げ班が活動を始めていました。
子ザメはフラフラと水槽の中を泳ぎ続けていたため、重い網を引き摺りながら追いかけ、掬うタイミングを伺っていると運よく水面まで浮き上がってきました。すかさず、網を入れてうまく掬うことに成功し、用意していた一時避難用の水槽に運び込み、予備水槽までの運搬の準備が整う間、「よく生まれてきたな」と撫でまわしてしまいました。
予備水槽に運んだ後も、子ザメは私たちがびっくりするくらい落ち着いていて、心配していた壁への衝突もなく、状態の良さがうかがえました。ここまで来てやっと私も落ち着きましたが、子ザメの可愛さに水槽の縁からしばらく離れることができませんでした。